HOME > ブログ【Blog】 > アーカイブ > 2014年6月
ブログ【Blog】 2014年6月
脂肪細胞は、3つのステージを経て増える
脂肪細胞は、3つステージを経て増える
脂肪細胞の増え方にはいくつかのパターンがあります。
例えば、最大に肥大した白色脂肪細胞を見ると、その間に小さな球形の細胞が数多く観察されます。つまり、成熟し、肥大しきった脂肪細胞は、新たな脂 肪細胞を生み出すのです。また、思春期の女性は、急に体が丸みを帯びてきますが、短期間に肥満が進むような場合には、脂肪細胞が二つに分裂して増殖する様 子が観察されます。これを細胞質分割型細胞分裂と呼んでいます。
さらに成熟した脂肪細胞は、球形ではない細長い繊維芽細胞様の未熟脂肪細胞も産生します。成人の肥満や思春期の肥満では、脂肪細胞の肥大と増殖が穏 やかに繰り返されますが、病的な肥満や腫瘍などの局所的および急激な増殖では、細長い繊維芽細胞様の未熟細胞が多く見られるという特徴があります。
私はこうした観察データーの結果から、脂肪細胞の肥大と増殖を3つのステージに分類しています。
まず、脂肪細胞の肥大を中心に進行している状態を、肥大優性型と呼びます。概ねBMIが30程度までの、軽度の肥満に見られるステージです。
次に、肥大と増殖が並行して進行している状態で、これを肥大・増殖型と呼んでいます。
このステージはBMIが30以上の中等度肥満に見られるステージです。
さらにBMIが40以上の重度の肥満になると、脂肪細胞の活発な増殖が観察されます。こうした状態を増殖優性型と呼びます。
すなわち、肥満は一つの増殖形態に固定された病態ではなく、脂肪細胞のステージの変化ととらえることができるのです。
脂肪細胞のアポトーシスは、肥満するとほとんど起きない
体のほとんどの細胞は、体の恒常性を保つために、アポトーシス(生理的な死)を繰り返します。それでは肥満すると脂肪細胞も適度にアポトーシスを起こし、細胞数がコントロールされるのでしょうか。そうではないようです。
アポトーシスを起こしている脂肪細胞を走査電子顕微鏡で調べると、その数は不通体重者および肥満者では1%以下で推移し、痩せてくると2%程度に増 加します。つまり痩せてくると、脂肪細胞は不必要とみなされて減少するのです。しかし、肥満すると、脂肪細胞は肥大・増殖に向かい、その状態を維持するた めにアポトーシスはほとんど起きなくなります。
脂肪細胞が肥大している状態は栄養豊富な状態で、せっかく栄養を維持している細胞を生体がわざわざ死滅させるわけがないのです。
そして成熟脂肪細胞は、アポトーシスを抑制するためのサイトカインを産生しているとの報告もあります。つまり、一度太りはじめると、痩せるのはなかなか難しいということかもしれません。
肥大した脂肪細胞はマクロファージを呼び寄せる
肥満とインスリン抵抗性の関連が示唆されています。
インスリン抵抗性は、ある一定濃度のインスリンが血中に存在しているにも関わらず、その濃度に相当する血糖調節作用(肝臓での糖新生、筋・脂肪細胞への糖の取り込み作用)が発揮されず、血糖値が上昇する病態です。
マ
クロファージは本来、体内に侵入した異物を補食する細胞ですが、近年、肥大した脂肪細胞が、マクロファージを呼び寄せる走化物質(MCP-1)を産生し、肥満した人の脂肪細胞の周囲にマクロファージが集まっている様子を観察したことが報告されました。
この所見は私も観察しました。そして、それならばマクロファージと同様に、インスリン抵抗性を引き起こすTNF-αを産生するマスト細胞もいるはずだと調べたところ、やはり浸潤していました。
つまり、肥満が進行するとマクロファージとマスト細胞が脂肪細胞に影響を与えて、インスリンの作用が発揮されなくなると考えられるわけです。
この考えにはまだ十分なコンセンサスが得られていませんが、肥満とインスリン抵抗性の関連を推測させる興味深い知見ではないかと考えています。そ して、メタボリックシンドロームをはじめ、肥満との関連が示唆されている多様な疾患の発症機序を解く鍵が、脂肪細胞にあるという証左が、近年次々に示され ております。
脂肪細胞のサイズに対する新たな疑問
さて、これまで日本人成人普通体重者のし棒細胞の大きさは70〜90μmと述べてきましたが、私は最近、非常に大きな疑問に直面しています。これま での検証の中で、ヒトは痩せてくると脂肪細胞が急激に小さくなり、30μm程度の大きさが主流になることがわかりました。脂肪細胞の多くが約30μmの大 きさである成人のBMIは18前後です。この数値は、日本で最古の身体検査記録である明治30年代の成人男性のBMIに相当しています。
ヒトの細胞は通常、肝細胞でも腎細胞でも、すべて3〜4倍にまでは肥大できます。直径が1・3倍しか肥大しないのは脂肪細胞だけなのでう。しかし それは、通常サイズを70〜90μmと仮定した場合であり、もし固有の脂肪細胞が30μmであるとすれば、肥大の上限と考えられる130μmは4倍以上に なり、他の細胞と変わらなくなります。
かなり肥満した人でも、顔や手足の脂肪細胞は30μm程度です。もし、30μmが日本人成人の固有のサイズであるとしたら、普通体重者で70〜90μmという現代人のほとんどが既に太っているということになるのではないでしょうか。
われわれは今、肥満に対する考え方を変えなければならない時代を迎えているのかもしれません。
(mouz studio) 2014年6月14日 11:50
1